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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(あ)1192号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人本村善太郎、同君野駿平の上告趣意(後出)第一点及び第二点について。

刑訴三九二条二項は同条所定の事由に関し、控訴審に職権調査の義務を課したものでないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(み)第五号、同年一一月一六日第一小法廷決定)。そして、第一審判決に所論のような理由不備又は検証の法則違背があったと云うことは控訴趣意において主張されなかったところであり、原判決もこの点について何ら判断を示していないのであるから、所論判例違反の主張はいずれもその対象を欠くものであって、適法な上告理由とならない。

同第三点について。

原判決には論旨の摘録するような記載があるけれども、原判決を熟読吟味すると、その趣旨とするところは、被告人の年齢、経歴、公務員としての地位に伴う社会的、道義的責任は弱年の小吏に比して遥かに重いものであり、当時の被告人の家庭的、経済的事情や犯情を併せ考慮すると、控訴趣意において主張されたような被告人にとって有利な事情を斟酌しても、その情状はなお決して軽いものではないということを示したものと解するのが相当であり、所論のように公務員中比較的高い地位を有する者と小吏とを抽象的に区別して、仮に被告人が小吏であったとしたならば刑の執行猶予を言い渡すべきであるが、高い地位を有する者の犯行なるが故に、他に如何なる有利な事情があらうとも執行猶予を与うべきではないとの趣旨を判示したものと解すべきではない。即ち論旨はその前提において原判決の趣旨を誤解したものであり、犯情によって、犯人の処遇を異にしても、何ら憲法一四条に違反するものでないと解すべきことは当裁判所の判例の趣旨とするところであるから、論旨はその理由がない。

よって、刑訴四〇八条に則り、全裁判官一致の意見を以って、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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